「岩の沈黙」

 岩は、人間の測定の能力からも想像からも遥かに超えた力の死骸である。宇宙を駆けめぐっていた一つの力は分裂し、呼び合ったりはじき返したりしていたが、いつしか消え落ちる火花のように、他の一層強烈な力に組み伏せられて失神し、そのまま動きを止め、次々に重なり合った、そういう力の死骸である。

随想集「山のパンセ」(岩波文庫版もあり)の中の一文。


だいぶ前に購入してから少しずつ読み進めているますが、一文一文が心に染みる随想集です。
先鋭的な登山であったり遠い異国の山であったりするわけではなく、ただ山に登り山で考え山で感じた事を言葉にしているだけで、これほど山に登っている時の気持ちを生き生きと感じられるとは。


上の一文は、普段自分が何気なく登っている岩というものに対して、ここまで性格かつ美しく表現出来るものなのかと感動したので引用してみました。


ほか、黙々と冬山を登っている時の随想なども、よくある冬山での心情を過不足無く表していて好きです。


同じ時にもうひとつ一緒に買ったのが辻まことの本。昔、岳人の表紙として書かれた絵と短文をまとめたもの。
時折、どんな写真よりも完璧に山でのワンシーンを表したような絵があって、こんな感じの写真が撮りたいんだ!と思わせられました。
お互いに背中を向けた情景の絵が多いのが、個人的には印象的です。


山のパンセ (集英社文庫)

山のパンセ (集英社文庫)


山からの言葉 (平凡社ライブラリー (151))

山からの言葉 (平凡社ライブラリー (151))